山南さんと土方さん-4

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芹沢暗殺以降、刀を振るう山南さんは見られなくなる。
大阪町奉行与力の暗殺(26話)、池田屋事件(28話)、蛤御門の変(29話)、いずれも前線に姿がない。1話冒頭の御用改めシーンは池田屋の一月前にあたるが、これも本陣とした居酒屋で待機し斬りこんでいない。
明らかに戦闘から外されている。理由は、"斬れない"ためだろう。
芹沢暗殺(25話)で左之助に助けられ、土方さん自身も岩木升屋事件(33話:斉藤の回想。芹沢暗殺の2ヶ月程前にあたる)において彼の窮地を救っているから、間違いないと思われる。
それでも土方さんは、彼のプライドを傷つけない配慮はしているようだ。
「山南君には、奴らが古高を奪い返しに来ることを考えて、ここに残って貰いたい」
「承知しました」(28話)
主導権は土方さんに移っているけれど、二人の力関係にまださほど大きな開きは見られない。

きっかけは、やはり池田屋事件だろう。

池田屋事件によって、新選組は名を高めた。それは何と言っても"武力"による成功である。局長自ら戦闘の中心で刃を振るい圧倒的な強さを見せつけ、副長は現場到着こそ遅れたものの苛烈な拷問によって古高の自白を引き出した。武闘集団である新選組の隊士たちにとって、局長と副長はいっそう畏怖と畏敬の対象となったはずだ。一方で前線に立てない彼は、慕われてはいても立場が低くならざるを得ない。この辺りはスポーツ選手の世界と同じだ。

免許皆伝の腕を持ちながら戦えぬ烙印を押されるのは、山南さんにはむしろ痛い配慮だろう。しかし原因が己にあり、彼自身の身だけでなく周囲さえ危険に晒しかねないとあれば、言われる通り"屯所の衛り"に甘んじるしかない。結果として山南さんの人事権を土方さんが握ったことになる。
ここに至って二人の位置関係は逆転する。
池田屋の報奨金を巡る意見の違いが生じたときも(30話)、土方さんが優位に話を進め、彼は頷くしかなかった。このときちゃんと揉めていればと惜しまれるが、間の悪いところへ来たことも加わって気が引けたのかもしれない。
ただ、ここでの飲み会に彼を外したのは、張り詰めた気を抜けずにいる勇さんを"身内"で囲み、楽にしてやりたかったのだと思う。山南さんは飲んでも堅い話をする人だし、土方さんも衝突を抑えられない自分を承知している。この場も土方さんが仕事の話題に反応して、楽しく飲むどころではなくなってしまった。

優位に立ったとはいえ、土方さんが彼に一目置いているのは変わらない。劣等感もあるのだろう。だからつい張り合ってしまう。そんな態度を向けるのは彼にだけだ。観柳斎や谷三十郎などは相手にもしないし、伊東甲子太郎には警戒と嫌悪が先に立って距離を置いている。(佐々木様には個人でなく組織として張り合っている)
だが、これまでのように格下の立場からぶつかっていたのとは状況が変わっている。山南さんの心には、命がけの任務を離れる後ろめたさと、磨いてきた剣の腕が役に立たないという自信の喪失もある。反対に自信に満ちてきた土方さんの態度は、そんな彼を更に突き放し、追い打ちをかけることになってしまう。
結果として山南さんの発言権は益々小さくなり、土方さんは自分の構想をどんどん進めていく。(→5に続きます

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