快挙を支えるものは

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あー...、日付が替わって12月になっちゃいましたが、でもまだ11/30ということにしときます。
新選組と土方さんの話題も続けたいのだけど、本日はちょっと時事的な話題を。科学に興味のない方も、あまり難しいことは書かないので、最後まで読んでやってくださると嬉しいです。

小惑星探査機「はやぶさ」のニュースはご存じでしょうか。
2003年5月に打ち上げられた「はやぶさ」は、この秋、目的の小惑星「イトカワ」に着陸して表面の岩石を持ち帰るという、プロジェクト最大の山場を迎えました。一時は衛星の位置を見失うトラブルがあったものの、再挑戦の結果、11/26には岩石採取が正常に実施されたことを示すデータが届いたとの発表がされました。SFに慣れていると大したことに思えないかもしれませんが、これは大変な快挙です。
これから地球に帰還するという難題が残っているので、プロジェクト全体の成功とは言えないけれど、ここまで辿り着くのにも数多くのハードルをクリアしてきています。万が一戻って来られなくなったとしても、どうか「失敗」だとは思わないでやってください。
「はやぶさ」と命名される前、この探査機は「MUSES-C」と呼ばれていました。「MUSES(ミューゼス)」とは工学実験衛星(探査機)のことです。これら「MUSES」シリーズは「不可能」「できっこない」「成功したら奇跡」と言われるほど難易度の高い技術を詰め込んだ衛星なのです。

「MUSES-C」の前には「MUSES-B」と呼ばれた衛星があります。打ち上げは1997年2月で「はるか」と命名されました。直径10mものアンテナを搭載した電波天文衛星です。もちろん10mの大きさのまま打ち上げることは出来ませんから、小さく折りたたんでおいて宇宙空間で展開させたのです。大きく報道はされなかったけど、これもたいへんに難しいミッションでした。
望遠鏡は直径(口径)が大きいほど精密な観測が出来ますが、大きなアンテナを造るのには限界があります。電波では複数の望遠鏡を同調させることで、望遠鏡間の距離に等しい口径の精度が得られます。従って、宇宙空間にひとつ電波望遠鏡があると、地球よりも大きな電波望遠鏡を合成できるのです(これをスペースVLBIといいます)。もちろん世界中の電波望遠鏡と協力して観測を行います。
その壮大なプロジェクトが、本日11/30に幕を下ろしました。

「はるか」の想定寿命は3年でしたから、予定以上に長生きしてその役目を終えたことになります。しばらくは取得したデータの解析が続きますが、すでに後継機の計画も進んでいます。

ほとんど報道されませんでしたが、この「はるか」プロジェクトチームは先月、IAA(国際宇宙航行アカデミー)のチーム賞を受賞しました。同賞は他に宇宙ステーション・ミールやスペースシャトル、ハッブル宇宙光学望遠鏡という、そうそうたるプロジェクトチームが受賞しており、それらに並んだと言うことで日本の宇宙開発レベルの高さを示しています。とかく失敗したときばかり注目されて非難されがちですが、地道な成功にも目が向けられないとフェアとはいえないでしょう。
日本の宇宙開発の特徴に、低予算であることが挙げられます。宇宙開発というと華やかな世界に思われるかもしれませんが、ほとんどは地味な研究と試験の積み重ねです。もちろんお金が稼げる仕事じゃありません。失敗すれば何億円が宇宙のゴミになったと言われるけど、例えばロケットや人工衛星の運用室がベニヤ貼りのプレハブ建てで、雨漏りを青いビニールシートで防いでいるなんて信じられますか?(数年前のことで今は改善されてるかもしれませんが)
それでも最先端の研究開発にお金がかかるのは事実です。税金の無駄遣いと疑問視する声もあるけれど、それらの技術はやがて日常生活にも還元されます。それに関わる人たちは決して億万長者にはなれませんが、なにより遥か昔から世界に秀でていた技術国・日本の誇りが、(関係者全ての)職人の誇りが其処に息づいています。

いま地上では、耐震データの偽造が大きな騒動になってますね。
問題視すべき点はいろいろあるし、関係者の責任追及や被害を受けた方々への救済、再発防止のための法整備など課題は山積みだと思います。しかし、そういったことで片づかない根本的な問題も残ります。それは、

ものづくりに関わる人が、ものをつくる誇りを失ってしまったら、お終いだ

――ってこと。
単なる自我の肥大化をプライドだとカンチガイする向きが多い昨今、真の誇りが意味するものなど失われつつあるのかもしれません。
私が知っていた職人さんたちは、見た目は冴えないオジサンでも、ものづくりに対しては決して安易に妥協しない尊敬すべき方たちばかりでした。(これは"職人"と呼ばれる方々だけのことではありませんが)
宇宙開発でも建築でも、どれほど華やかなスポットを浴びることがあろうと、それは地道に堅実に尽力してきた方々あってこそ成り立つもの。受け継がれるべきはその技術だけでなく、むしろそれを支える姿勢と精神でしょう。それが失われてしまえば、梁の足りないビルの如く、見かけだけの"技術"などは簡単に崩れ落ちてしまいます。
そしてそれは当然ながら、"技術"だけの問題ではないわけで。

...おっといかんいかん。社会問題なんか語るつもりじゃなかったのに。ここは呑気な戯言ブログですから(^^;
今晩は8年以上もの大役を終えた「はるか」を労って(計画段階を入れると20年にもなるプロジェクトですが)、久しぶりに遠い宇宙へ想いを馳せつつグラスを傾けております。ちなみに「はるか」のスペースVLBI計画のことを「VSOP(VLBI Space Observatory Programme=VLBI技術による人工衛星天文台計画)」と呼ぶんですよ。ブランデーから採った名前ではない(はず)ですけど、酒好きで洒落た関係者が多かったからどうでしょうか...?(笑)
しまった、いま呑んでるのってバーボンじゃないか。たしかシンクの下にアルマニャックのVSOPが...あ、あったあった。これでもう一杯呑み直すことにしようっと(^^)←現在時刻12/1午前2:25。果たして明朝起きられるのか?(笑)

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(はじめましてで申し訳ないです)
急に話題が変わったので「お?」っと思いましたが、なるほど「はやぶさ」から「はるか」についての呟きでしたか。納得。
シンクの下で寝かせてあった?VSOPがKonさんにとって旨かったかどうかは想像も出来ませんが、「はるか」の名付け親につらなるK藤さんがニヒルに嘲っている様なんかが頭に浮かんできましたよ。
誇らかにあれ!(わたしもこっちで)乾杯~!

おぉっと、やっちさん! ついにご登場くださいましたか、嬉しいです。
昨夜は酒が入って「ろまんち」気味になってたようで、読み返すと少々恥ずかしいです。そっか、やっちさんにはその話もしてましたっけ。きっと呑みながら酔っぱらって喋ってたんでしょう。(つうかニヒルって何? ^^;)
VSOPは寝かせておいたというより封を切る機会がなかったんですが、旨かったですよ。流石にストレートでは酔いの回りが早かったけど…。
今度また一緒に呑みましょうね。たまにはひっそりと想いに浸りつつ呑むのもいいけど、やはり呑み仲間と酌み交わす酒は格別です。あ、一月もすればMさんも加えて盛り上がれますね。楽しみにしてます(^^)
※投稿日時:2005年12月2日 03:41

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