山南さんと土方さん-1

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週に一度、母と「組!」DVD鑑賞会をしている。すでに2巡目に入っているが二人とも飽きないのだ。昨日は31~35話を見た。9日に山南役・堺さんのトークを聞いていたので、タイムリーに山南切腹の回(33話)を見返すことになった。
10日の記事に書いた"切腹に使った短刀の怨念"、ドラマを見る限り山南さん本人に怨念が残るようには思えない。むしろ、彼に関わった人たちの想いの方がずっと強いだろう。そんな皆の気持ちを象徴するものであるように感じた。
山南さんの脱走~切腹について考えることは多い。表現できる言葉がうまく見つからないのだが。

放映時、土方さんが本心(実は頼りにしていること)を彼に直接伝えていればこんなことにならなかったのでは...という感想を多く耳に(目に)した。しかし、私はそれだけでは変わらなかったと思う。彼の望む"居場所"は、土方さんが用意した場所(「あんたの進むべき道は俺が知ってる」)では無かった。それは、彼が勇さんに「あなたの進む道はあなた自身が決めるべきだ」と告げたことからわかる。
土方さんは言葉が足りないとも言われるが、けっこう要所要所で意思表明をしている。皆が京に残ると決めたとき(14話)は「これから何があろうと我ら試衛館一同、心はひとつだ」、殿内殺害犯を隠匿したとき(17話)も「憎まれ役は俺が引き受ける。これからはすべて」と皆の前で宣言したし、八・一八政変の後(23話)も「新選組を大きくする。そのためなら俺は喜んで修羅の道に踏み込んでやる」と山南さんに告げている(そこに斉藤も居るのが象徴的)。だからそのつもりで覚悟してくれと言っているように聞こえる。
むしろ土方さんの方が、山南さんが何を考えているかわからなかったと思う。彼の心に迷いがあったのだから端から見て理解できないのは当然ともいえる。

彼にとって土方さんとの対立は最大の悩みだったにせよ、脱走の引き金は伊東甲子太郎の入隊だろう。彼の"居場所"(アイデンティティ)はそれによって失われた。そして、間の悪いことがいろいろと重なった。
脱走に至った原因は、"悩み"ではなく"揺らぎ"にあったように感じる。新選組の在り方について、己が何を為すべきかについて。これではいけないと思い主張しつつも、現実的で具体的な代替案の提示は出来ずにいる。芹沢暗殺のときから彼は揺らいでいた。
土方さんは揺るがない。だから辛くても耐えられるし、悩み苦しんでも、誰より強い。
彼にはそれがわかっていた。学も剣も勝っているはずの自分が、何故土方さんに敵わないのか。強い力で勇さんと新選組を引っ張っていくその原動力が何なのか。
「土方くんには近藤さんのためという想いがある。だからどんなことでも出来てしまう」
「私は近ごろ思うのです。つまるところこの国を動かすのは考え方や主張ではなく、人と人との繋がりなのではないでしょうか」
人との繋がりのためにどんなことも出来てしまう、「私はそれが一番怖い」と言いつつ、そこまで揺らがずに居られることが少し羨ましかったかもしれない。
その土方さんにも揺らいだ時期がある。ずっと昔、勇さんの襲名披露の晩(7話)だ。剣は総司が頭脳は山南さんがいるから薬屋に戻ると、自分の居場所を見出せずにドロップアウトしようとした。「かっちゃんに俺はもう要らないから」とトシは言ったが、山南さんが脱走した理由も同じではないだろうか。

生死の問題に発展するほどの彼の"揺らぎ"に誰も気づけなかった。彼自身もギリギリまで気づかなかったのでは。一番わかっていたのは土方さんかもしれない。「あんたの進むべき道は俺が知ってる」は、だから迷わずに一緒に来いという土方さんなりに最大限の表現だろうし、そんな不器用さは山南さんも「長い付き合い」でわかっていたと思う。が、彼は差し伸べられた手を取らなかった。(斉藤さんの回想(33話)では土方さんの手を取っていたが。このシーン、どこか命を捨てている山南さんのピンチを土方さんが救っていて象徴的)

そして彼は法度を破った。月並みな台詞で例えれば、このまま進むなら俺を殺してから行け、というのに近いかもしれない。法度で縛る以上はこれも"避けては通れぬ道"(元はといえば二人が共謀して選んだ道)であり、通ってしまったら後には引けないのだ。死を受け入れたとき、彼はそのことをも受け入れたように思える(共に歩むことは出来なかったのだろうが)。だからこそ「悔やむことはない、君は正しかった」という言葉を遺したのではないだろうか。
土方さんは彼に向けて一言も発しないが、土方さんだけが自分で部屋の障子を閉めた。それは自分が彼に引導を渡す形になったことと、彼の意志を只一人受け止めたという両方の比喩にも見える。
生と死に別れたが、法度を作った二人が、共に法度に対する自らの退路を断ったのだ。残った土方さんは彼の死を無駄にしないために、更に修羅の道を邁進することになる。結果的にそうさせてしまった彼が確信犯だとは思えない。"避けては通れぬ道"を選びながら其処を歩めなかった人である。良かれと思った言動が裏目に出がちなのは、山南さんのひとつの特徴だからだ。(→2に続きます

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