山南さんと土方さん-「組!!」編

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続編が、土方・榎本・大鳥のディスカッション劇であると知ったとき、これは山南さんがクローズアップされるなと思った。とことん話して解り合う――土方さんが誰よりそうしたくてできなかったのが、山南さんだから。
そう思って去年のうちにこのテーマで語ってみた。最後は少々駆け足になってしまったけど、やはり観る前に書いておいて良かった。

本編で土方さんが山南さんを思い出すときは、どうしても法度とセットにならざるを得なかった。
勇さんが法度を撤廃すると決めて、「今なら山南さんも許してくれると思う」と言ったとき、土方さんのなんともいえない表情が痛かった。

「...それから、山南さん」
噛みしめるように、続編で初めてその名を口にした土方さんは、眉間を寄せてやっぱり少し切なそうで。でも。
「山南総長は、武士の中の武士だ。あの人が居なきゃ、今の新選組はなかった」
静かに告げる台詞とその後の間、短い間にいろんな表情が入り交じる。それをじっと見ているだけで胸が熱くなる。
土方さんは多くを語らない。しかしこれだけのことが伝われば充分なのだ。言葉の中に昔のような辛さはない。もう法度はないし、或いはもうじき自分も"其処"へ行くのだという気持ちもあったのか...。
そして、回想シーン。一番強い生き物は何かという、たわいもない会話。
「ひとつ確かなのは、この世の中には我々の知らない生き物がまだまだ沢山居るということ。ひょっとしたらもっと強い生き物が居るのかもしれません」
そう言った知識人の山南さんが"鵺(ぬえ)"と答え、体験派の土方さんが"人"と応えるのかと思った。だが、逆だった。
ところで、ここで土方さんが鵺と答えたのは、先の山南さんの言葉に応えたような気もするのだ。だからこそ、その前フリの後で人と答えた山南さんに「そんな締め方でいいのか」と不満を訴えたのではと...。考えすぎだろうか?

もうひとつ"逆だ"と感じたことがある。

「道場主とは、そういうものです」
一人で寂しそうに食事をする"近藤先生"、「呼んでやるか」と言う土方さんを制したのは山南さんだった。それは分別ある言い分であろう。が、本編ではどうだったか。
「耐えろ。局長ってのはそういうもんだ」(26話)と言ったのは土方さんで、「あまり局長局長と持ち上げ、近藤さんにだけ力が集まるやり方は、何より近藤さん自身が辛いとお感じになるのではないですか」(30話)と言ったのは山南さんなのだ。無論、新選組になってからのことだが。
やはり二人の立ち位置はいつしか逆転していたのだな...と改めて感じた。

身辺整理をしていく土方さんは、いろんなものを様々な形で周囲に"託して"いく。考えてみれば"託す"バトンを始めたのは山南さんではなかったか。土方さんに向けてそうとは言わなかったが、言葉にはせずとも最も大きく重いものを託したのは間違いあるまい。

「そんなことをいちいち言っていたら何も出来ん」
「最悪の場合を考えるのが策っていうもんじゃねぇのか」
大鳥さんとの会話だが、「組!」の後半でも似た場面かやりとりがあった気がする。言うまでもなく池田屋前の軍議(28話冒頭)が思い起こされるわけで。
ただ、土方さんが「学者さん」と呼び「世の中机の上の計算の通りにはならねぇってことだ」と言い放つ場面では、大鳥さんの方が山南さんと重なる。山南さんにもそう言えなかったのは、それだけ存在が大きかったからか。

榎本さんとの一騎打ち。
まずは「仙台」という地名に反応せずにはいられない。山南さんの出身地で、土方さんは何を想ったのか...。
二人のやりとり。話を打ち切って去りかける土方さんを呼び止める榎本さんに、かつてもう一声が掛けられなかった山南さんを思う。榎本さんが差し出す"西洋の酒"や"さんどうぃっち"を取る土方さんに、山南さんに歩み寄れなかった悔恨を透かし見てしまう。
「榎本さん、俺にはどうしてもわからない。あんたという人間だよ」
あ、土方さんはわかろうとしている、わかりたいと思っている...。それを言葉にした土方さんに胸が熱くなった。
この言葉を山南さんに向けていたら...どうなっていただろう。
そうして、互いに夢を語り合えていたならば...。

「君は京にいたときもそうやって策を練っていたのかい」
「ああ」
「池田屋で、大勢の不逞浪士を捕縛したときも?」
「あのときは俺と山南さんで考えていた」
「誰だ?」
「江戸にいた頃からの仲間さ。俺が全体の策を立てそいつが細かい陣割りをする。それが新選組のやり方だった」
ここで思い出すのは、京都へ向かう途中の宿割りのシーン(13話)。全体の動きや人の配置は土方さんが指示し、メモを取ったりどの部屋に何人割り振るといった庶務面は山南さんが請け負っていた。芹沢一派との人事合戦(笑)も同様だったし、1話冒頭の御用改め前の軍議でもそうだ。いかにも"口を挟んだ"ようなのは山南さんの切り出し方が土方さんの癇に障るからで、その意見はちゃんと受け入れている。
具体的に二人で作戦を練る場面は見られなかった池田屋のときも、裏では意見を交わしていたんだ...。
山南さんが居たのは最初の2年間だけなのに、土方さんにとっては今でもそれが"新選組のやり方"なんだ...。
「では今は私が、その山南さんの代わりを務めるとしよう」
「...無理だ」
会話の相手は榎本さんだが、まるで山南さんへの告白のような。言った土方さんはどこか晴れ晴れとした様子だけど、山南さんは赤面しているかもね。(その横で総司がからかっていそうだし^^)

「やつらは、薩摩だの長州だの土佐だのが混ざって出来た鵺だ。その化け物を、最後に人が倒す」
一番怖ろしいのは人と答えた山南さんは、あまりいい意味では言わなかったように感じた。人は人を欺くと。
けれどこのときの土方さんは違う。山南さんの言葉を昇華して、いいことも悪いことも引っくるめて、人は強いのだと。俺たち人は化け物になど負けない、負けてなるものかという強烈な意志が見える。

見ていろよ山南さん――土方さんの声が聞こえるようだった。

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スバラシイ!konさん何て深い!!
最初の3行でやられました。すごい納得した!
正直、本編で最後のほうは局長の存在が大きすぎて(「流山」での別れの場面なんて可哀相でもう見ちゃいられなかった;;)、山南さんはもう「テレビの前で正座して見てる人」ってイメージだったんですよぅ(爆)
だから「組!!」で山南さんがこんなに重要な役を占めてるのがちょっと意外だったんだけどその意外感が全て払拭されました!そうだったのねミタニン!
私など、山南さんを大鳥さんに微妙に重ねてるのは、単に名前が一緒なだけだと思っていた(爆)

私、「!!」はほんとハッピーエンドだったんじゃないかなって思いました。残された人はそれどころじゃないだろういけど;;鉄が走って行くとこなんか特に未来が見えましたv
最期はキレイな笑顔だったし。かっちゃんありがとうって感じ(笑)
あと、永井様!永井様ええこと言う!!!

konさんの「!!」感想はあと何編と何編があるのかなvv楽しみにしてますv

山南さんと大鳥さんって、似た立ち位置で描かれてるんですよね。
土方さんと同じ役割でひとつ上の立場、学のある理論派で実践(実戦)だと甘さが出て、一見及び腰に見えても中身は熱く、理想通りにならない己の現実にジレンマを抱いてて。そして土方さんに複雑な嫉妬と反発と羨望を感じているところとか…。
なんて、あれこれ考えたり深読みするのが好きなんです(^^;

> 「テレビの前で正座して見てる人」
実際の堺さんがそうだったみたいで。ってわかってるんだけど思わず、“あの扮装で正座してテレビを見てる山南さん”を想像しちゃった…(笑)

だけど確かに「組!」「組!!」における人間関係の主軸はかっちゃんとトシですもんね。「流山」の辛さはもう…一年以上経った今でも言葉にできません(泣)
あの別れからようやく会えたんだもの、「組!!」の土方さんの最期はハッピーエンドだなとは思うんですよ。ホント「かっちゃんありがとう」ですよね。
でも、でもやっぱり…なんていうか…、ムック本対談の熊面尾関な気持ちになっちゃうんですよ。副長…(涙)

永井様、よかったですよねぇ。「組!!」感想はまだまだ突っ込んでいきますので、暇潰しにお付き合いいただけたら嬉しいですvv

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